営業、物流、メーカーとの交渉、すべての局面でレスポンスが問われる。
 出かけている間に、重要な連絡が入ることもある。
 顧客は、自分からは決してこれは重要な用件だとはいわないから、それを判断するのは、チームを組んでいる女子事務員の推理力だ。
 小林は、その推理力の助けになるかと思い、現在の営業状況と攻略ターゲットを彼女に伝えている。
 午後4時すこし前、営業所に電話した。彼女の声が飛び込む。
 いまT社からサンプルを届けてほしいと依頼がきました。ひょっとしたらB物件かもしれません。明日でいいといっていますが、一応連絡を。


 T社とB物件の線は、前から小林が狙っていた話だ。B物件は大型マンションで、その内装工事がどこに決まるか、いろんなところで話題となっていた。
 T社かS社、あるいはW社。
 そのT社からのサンプル依頼。
 小林は直接T社に向かった。
 まだ30分もたってないよ。おたくはいつも対応がはやいね。
 T社の社長の顔が緩む。
 あっ、これは決まったな、小林はそう直感する。
 サンプルは明日朝いちばんでお持ちします。よろしくお願いします。
 頭を下げる小林。
 社長もそれに対し大きく頷く。

   

 T社から正式に大型受注をした数日後、小林は、S支店の同僚Yから電話をもらう。
 P現場を通ったからのぞいたんだが、もうそろそろだ。用意をしておいたほうがいいよ。
 P現場は、小林の担当顧客が施工しているが、場所は担当エリアを外れS支店に近いところにあった。
 Yの話の内容は、2〜3日後には材料が必要となる段階に工事が進むので、その確認をしておいたほうがよいだろう、といことだ。
 電話を切っても暖かさが残った。
 自分らしくないけれど、この結束力がワタナベの総合力なんだ、となぜか小林は素直に納得した。